DDSTX

02版 2019.01.15
01版 2018.04.17
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中国製DDSモジュール(AD9850)を搭載した出力3W 7MHz CW送信基板です。PICやArduinoと組み合わせて送信機を構成することができます。
大信号扱いの初心者として、製作を通しての失敗や苦労した話等も記載しています。



はじめに

終段2SD882によるC級増幅です。目標出力5Wのところ実質3Wとなりました。

送信機やトランシーバへ搭載する汎用基板です。DDSを有し、外部制御部との切り口はDDS制御インタフェースとしています。これにより、制御部は、PIC、Arduino等自由に選択できます。

仕様

○出力電力              : 3W
○スプリアス領域における不要発射強度 : -55dBc以下
                      (規格は50μW以下:-48dBc以下)
○終段デバイス            : 2SD882シングル
○電源電圧              : DC+12V

ブロックダイヤ


ブロックダイヤグラム
DDSモジュールと3段RF増幅回路から構成しています。

「*SEND」信号は前置増幅および励振増幅回路へ供給する+12VをON/OFFします。
「TRCONT」信号はアンテナの切替に使用します。

電鍵は前段の制御部へ接続します。制御部では、電鍵情報を「Power Up/Down」コマンドへ変換し、DDSへ転送、制御(送信キャリアON/OFF)します。これは、受信中のDDS出力リーク防止の為です。送信周波数をDDSから直接出力する周波数構成においては送受周波数が同一となり、この制御が必要となります。

回路



DDSモジュール部

VFO等に使用されている中国製のAD9850DDSモジュールです。
このモジュールの詳細はトラ技2014年1月号でJA9TTTさんがレポートされています(*1)。

DDS内蔵LPF出力側(SINB)から取り出しています。出力電圧は7MHzで約400mVo-pでした。LPF出力は200Ωにより内部終端されています。LPFインピーダンスに整合させた値です。(参考:LPFを通さない出力SINAは100Ωで内部終端されています。この出力は7MHzで約440mVo-pでした。)

3つの入力信号は1kΩを介してDDSへ接続しています。これは、本DDS電源OFF時、外部制御回路電源ONにより制御部出力からの流れ込み電流を抑えるためです。

前置増幅部


02版 2019.01.20UP
以下の同調回路設計において、インダクタンスLの算出式にミスがありましたので訂正します。式L=Rc'/(ω0*QL)のRc'は間違いで、同調回路にぶら下がるインピーダンスをRp'とすると、正しくはL=Rp'/(ω0*QL)となります。
【Rp'について】 同調回路から外側を見た時、ドレイン側を見たインピーダンスRc'と負荷側を見たインピーダンスRl'があります。従ってRp'は、Rc'とRl'の並列接続となります。Rc'=Rl'とすると、Rp'=Rc'/2=Rl'/2。(ここでは、LC回路の損失分は無視しています。)


この変更による影響を最小限に留めるため、設計Qを現行の1/2とし、QL=20からQL=10へ変更します。これにより、L、Cおよびコイルの巻き数比N1、N2に変更は生じません。

設計Q変更の結果、実測値はQL=18(下の「測定データ」)であり約2倍の差が生じました。

たまたま目標としていたQL=20に近いためこのままとしますが、原因解明はできていません。考えられる要因は、コイルの結合係数↓、Rc'↑及び次段入力インピーダンス↑によるRl'↑が挙げられます。中でも、結合係数の影響が大きいかもしれません。実測してみる必要がありそうです。


2SK241GRによる同調増幅回路です。

AD9850モジュール出力200Ωに対して、入力は十分Highとなる5.1kΩで終端しています。このハイインピーダンス終端による異常発振や動作不安定を心配しましたが、発生しませんでした。

同調回路は負荷Q=10 (Q=20から変更 : 02版)程度とし、フィルタ効果を持たせています。これは、DDS出力の高・低スプリアスの低減や制御部からのDDS誤制御時のフェールセーフを目的としています。

Q=20はバンド幅200kHzを十分カバーし、実現しやすい値として選びました。
実際には設計・製作上の興味があり、経験のため敢えて高めのQに設定したというのが本音です。

同調回路は以下の通りです。

                              02版
   Vcc=12V、入力電圧=0.4Vo-p
   電圧利得10倍(ドレイン出力電圧VD=4Vo-p)
   二次側負荷インピーダンスRL=150Ω
   共振周波数f0=7.02MHz
   QL=10、巻数比N1=2(=n0/n1)
         
  -----------------------------------------------------
  ・負荷抵抗Rc;
     入力電圧、ID-VDS特性より負荷線を引き
     Rc決定 Rc=700Ω
  ・同調回路からドレイン側を見たインピーダンスRc';
     Rc'=N12*Rc=2800 [Ω]
  ・同調回路から負荷側を見たインピーダンスをRl'とし、
     Rc'=Rl'(共振時、整合状態)とする。
  ・同調回路外側の合成インピーダンスRp';
     Rp'=Rc'//Rl'=Rc'/2=1400 [Ω]
  ・インダクタンスL;
     L=Rp'/(ω0*QL)=3.2 [μH]
  ・キャパシタンスC;
     f0およびLから、C=1/(ω02*L)=161 [pF]
  ・コイル選定;
     10mm角FCZコイル相当品ボビンへ手巻き
  ・巻数比N2(=n0/n2);
     N22=Rl'/ RLより、N2=4.32
  ・巻数n0及びn2
     L及びCQ誌2011年9月号P.94(*3)を参考に
     n0=18と決定
     N1=n0/n1=2より、n1=9
     N2=n0/n2=4.32より、n2=4.2 (4)
     




励振増幅部


02版 2019.01.20UP
前置増幅回路と同様、同調回路設計においてインダクタンスLの算出にミスがありましたので訂正します。
また、QL=3をQL=1.5へ変更します。


増幅は2SC1815GRによるC級増幅です。
シングルバンド送信機ですので、出力には敢えて同調回路を使用しました。
設計は以下の通りです。

                             02版
   VCC=12[V]、出力P0=0.125[W]、QL=1.5
   共振周波数f0=7.02MHz
   2次側負荷インピーダンスRL=25Ω
       
  --------------------------------------------------------
  ・負荷抵抗Rc(*4);
     Rc=VCC2/(2*P0)=12*12/(2*0.125)=400[Ω]
  ・同調回路から負荷側を見たインピーダンスをRl'とし、
     Rc=Rl'(共振時、整合状態)とする。
  ・同調回路外側の合成インピーダンスRp;
     Rp'=Rc//Rl'=Rc/2=200 [Ω]
  ・インダクタンスL;
     L=Rp'/(ω0*QL)=3.0μH
  ・キャパシタンスC;
     f0およびLから、C=1/(ω02*L)=172 [pF]
  ・巻数比N(=n1/n2);
     N2=Rl'/ RL=400[Ω]/25[Ω]より、N=4
  ・コア選択;
     トロ活「●付録」(*5)を参考に、使用周波数と
     Lから、Qが比較的高いT50-6を選択
  ・コア巻数;
     L及びT50-6のAL値(*5)より、n1=28
     巻数比 N=4より、n2=7

----- 回路決定までの経緯-----

当初はA級で実験しました。大入力を与えることにより大きな励振電力を楽に取り出すことができましたが、当然ながら熱の問題が発生しました。

次に、バイアス点を下げてAB級とし、出力も適度に抑えたところ、熱問題は解決しました。

その後、出力を同調回路に変更し動作することを確認しました。

その時点で欲が出て、C級でもいけるのではないかと考え、実験してみたところうまく動作しました。


----- 失敗 : 透磁率の低いコイルは結合係数が低い -----


コイルのコアはT50-6 (μi=8.5) を使用しています。当初はリンクコイルにより出力していましたが、出力レベルが低く設計値の約1/20という問題が発生しました。

調べると、透磁率が低いとトランスとしての効果が小さく、巻数に電圧が比例しないことが分かりました(*5)。
結局、タップ付コイルに変更することにより解決しました。

電力増幅部

2SD882によるC級増幅です。

出力回路は以下の通りです。

    VCC=12[V]、出力P0=5[W]
   負荷インピーダンスRL=50[Ω]
      
   -----------------------------------------------------
   ・負荷抵抗Rc(*4);
      Rc=VCC2/(2*P0)=12*12/(2*5)=12.5 [Ω]
   ・巻数比N、n1=n2;
      N2=Rc/RL=12.5[Ω]/50[Ω]より、N=0.5
   ・コア、巻数;
      コアはFT50-61を選択(*5)
      バイファイラ巻10T

---- デバイス選定 (偽物デバイス特性不良で苦労 ) ----

デバイス選定に1年以上かかりました。

当初、2SC1971等、昔からよく使われている数種のトランジスタを実験しました。

生産終息している国内メーカ製トランジスタを隣国の通販で入手したことが間違いでした。特性が出ません。

しかし、当時は特性が出ない(偽物)デバイスを入手しているとは全く気がついていませんでした。回路の問題なのかドライブ不足なのか、問題の切り分けができず、原因不明のまま中止しました。

( この記事作成中、「偽物2SC1971はエミッターとコレクタのピンが逆」という情報をwebで発見!腰を抜かしました。早速当時のバラックで試験したところあっさりと2.5W出力しました。あの頃の長く・暗い苦闘の日々は何だったのだろうかと唖然としましたhi )

次に、中国製のQRPトランシーバキットを調査してみると2SD882を使用していることが分かり、早速同じ回路で実験しました。

出力が出ません。せいぜい0.8W程度で、これ以上UPすると簡単に壊れます。

2SD882はこの時もまた隣国からの通販で入手しました。後でわかったことですが、殆どが特性不良であり、最初に入手した中にたまたま特性が出るものがあったようです。このことが却って、回路/デバイス問題切り分けの長期化の元凶となりました。

出力電力が出ないだけでなく、恐らく耐圧が定格以下です。150個以上壊しました。

調査で悩んでいた時ふと気が付き、8W出ているキットから外して実装したところ軽く3W以上出ました。

結局のところ、隣国から購入した殆どが特性不良であることが分かりました。目の前の霧が一気に晴れた思いです。

その後、国内ショップ3店から入手したところ、さすがに特性は全て満足するものでした。1店は台湾メーカ製でそれなりの特性、他の2店のうち単価の最も高いショップのものが最も特性が良く、これぞ本物かと関心、感動しました。

本物デバイスの入手によって設計値の5W出力も望めそうでしたが、これまでさんざん壊してきたトラウマもあり、3W止まりとしました。常温で4時間の連続送信試験でも壊れません。

LPF部

カットオフ周波数9Mhzの7次チェビシェフLPFです。
設計には「アナログLCフィルタ設計支援ソフト」(*6)を使用しました。

PTは本体と切り離してアンテナコネクタ近辺への実装を考えていましたが、特性に影響が無いため一体のまま使用しています。

電源部

DC12Vから三端子レギュレータ7805によりDC5Vを得ています。
AD9850モジュールは消費電流が大きく、7805入力側へ分圧用抵抗を設けています。それでも7805は発熱が大きく放熱フィンが必須でした。

5Vは外部出力できます。又、7805関連を未実装とし、外部から5V端子へ供給(入力)も可能です。


*1:「中国製500円DDSモジュール使用レポート」トラ技 2014年1月 加藤高広著
*2:「高周波回路の設計・製作」第2章  CQ出版社 鈴木 憲次著
*3:「FCZコイルの自作法」CQham radio 2011年9月 P.93 加藤高広著
*4:「高周波回路の設計」第5章 CQ出版社 久保 大二郎著
*5:「トロイダル・コア活用百科」 CQ出版社 山村 英穂著
*6:「ディジタル信号処理による通信システム設計」 CQ出版社 西村 芳一著

試験回路

アナログ部の試験はDDSモジュールの代わりにSGを接続して行いましたが、DDSを通した試験では以下の試験回路を使用しています。

Arduino UNOで動作させています。プログラムはAD9850ライブラリ不要の作りとしました。データ転送にプログラムによる転送とshiftout命令を使用する2つの転送方法を採用しています。立ち上げ時、1回のみDDSへ設定しています。( プログラム:AD9850test.TXT )

ArduinoとDDSへ個別に電源供給する場合、次の投入シーケンスを守るよう心掛けています。但し、よく間違います。

 ・投入順 : @DDS ON → AArduino ON
 ・切断順 : @Arduino OFF → ADDS OFF

これは、DDS(C-MOS)無電源時の外部入力信号線からの電流流入を回避するためです。但し、DDS入力側へ電流制限用抵抗(1kΩ)を挿入しているため投入順が逆でも壊れることはありません。


試験回路


測定データ

前置増幅回路の各部電圧と出力レベルを測定しました。

測定時のコイルおよびCは、n0=20、n1=10、n2=4、L≒4.6uH、C=110pFです。コイルは実験のために3種類製作した中の一つですが、巻き数が大きかったようです。(計算ではn0=18、n1=9、L=3.2uH、C=161pF。ボビンは「ラジオ少年」より入手。)

入力レベルはDDSモジュール出力レベルと同等の109dBu(約400mV)固定です。
電圧はオシロで確認しています。プローブ容量の影響がありf0調整に苦労しました。因みに、手持ちのRFプローブは電圧範囲が狭く使用不可でした。


前置増幅回路 各部電圧および出力レベル

電圧利得は4.1Vo-p/0.4Vo-p≒10倍(20dB)で期待通りです。

出力電圧(C点)は、計算値1.9Vo-pに対し1.3Vo-p(約0.68倍)と目標0.8倍を下回る結果となりました。但し、負荷150Ωにおけるこの電圧(電力5mW弱)は、次段2SC1815C級増幅を十分ドライブ可能なレベルのようです(「入出力特性( 前置増幅+励振増幅 )」参照)。


前置増幅部の設計Qを得るためには出力がリニア領域にある必要があり、確認のため入出力特性を測定しました。
前置増幅入出力特性  測定系

109dBμ(EMF)入力前後において、出力は十分リニア領域にあることが分かりました。


前置増幅部 Q特性

設計Q=10 (Q=20から変更 : 02版)のところ、Q≒18となりました。


前置増幅部〜励振増幅部の入出力特性です。
入出力特性( 前置増幅+励振増幅 ) 測定系 
109dBu入力においてレベルメータの値は-6.9dBmです。出力は-6.9+30=+23.1dBm、約200mWとなり、設計値の約1.6倍となりました。

但し、109dBu入力点において励振増幅段は既に過励振であり、出力波形下側約2/5の歪により、レベルメータの読みは正確ではありません。

励振増幅部出力波形(25Ω終端)
歪改善策として、入力レベルを下げるか出力電力を増やすことが考えられます。しかし、どちらにも問題があり、対策のメリットがありません(実験していませんがYランクへ変更等、他に良い案があるかもしれません)。

次段C級増幅へのドライブは波形正側で行われるため、負側の歪はドライブ動作に支障は無く、現状のまままとしました。歪によって平均値が0より多少大きくなり、その結果、0Vを中心として正負面積が等しくなるように正側波形全体が多少負側へ移動することでその分ロスとなりますが、ドライブ能力は十分であり無視できます。(但し、同調回路を設けたにも関わらず、波形歪を許容する情けない結論ではあります。)


前置増幅部〜電力増幅部の入出力特性です。
 
入出力特性 ( 前置増幅〜電力増幅 )   測定系 
109dBu入力で出力3W(レベルメータ値+5dBm)となるように電力増幅部入力ベース電流調整後、測定しました。

入力109dBuから2〜3dBUPすると安定領域へ達することが分かりますが、109dBu入力で十分と判断しました。



LPF特性(7次チェビシェフ、fc=9MHz)

シミュレーションでは14MHzにおいて50dBのところ、45dBは確保できているようです。





出力スペクトル(LPF前後)

スプリアスは55dBc以上です。


上の測定後スペアナが故障したため、以下はAPB-1により測定しました。
以下の3データのキャリア相対レベルは全て同一で約-14dBです。


SPAN 50kHz

『帯域外領域におけるスプリアス強度』(-48dBc以下)も問題ありません。



SPAN 500kHz


SPAN 5MHz




おわりに

完成してあらためて回路を振り返ってみて驚きました。昔からの何処にでもある有り触れた回路の集合となっています。工夫や斬新性の欠片もありません。しかし、そのことが寧ろ回路を安定にしているかも知れず、ビギナーにとっては良かったのかもしれません。

偽物デバイスに悩まされながら、数々の新しい経験を積み重ねて完成した初めてのオリジナル機(?)であり、思い入れのある回路となりました。




AD9850モジュール搭載CW専用7MHz3W送信基盤の製作について紹介しました。
今後、本基盤を使用した送信機を自作する予定です。