CATを利用したDDS VFOの実験

01版 2018.12.22
TOP  実験  アクセサリー 



FT-2000DのCAT機能を利用した、受信周波数に追従するDDS VFOの実験です。以下、CAT VFOと呼びます。追従のための周波数情報は、FDDS VFOではアナログ入力信号の周波数計数により得ましたが、今回はCATを通してFT-2000Dからダイレクトに得ています。出力用デバイスとしてAD9833とSi5351Aの2種について実験しました。親機FT-2000Dと自作CW送信機の組み合わせによる運用が目標です。



 
CAT VFO( 実験機 )

構成


実験機ブロックダイヤおよび全体構成
FT-2000Dから周波数情報を読み込み、DDSやPLLクロックジェネレータ等を制御します。

上図のCONT OUT接続先は、同一送信機内DDSインタフェースを有するDDS搭載送信基板等を想定しています。
今回は、実験用としてジェネレータ部へAD9833(実験1)とSi5351(実験2)を実装し、アナログインタフェースにより自作送信機QT-71Jと接続しました。



実験1(FT-2000D ~ Arduino ~ AD9833)

実験機

Arduino UNOへ5mm×7mmユニバーサル基板を載せ、その上にバラック配線しました。
ハーフピッチずれている部分の穴開け、コネクタ取り付けに手こずりました。

実験機回路図
LCD
 
中国製です。
配線が楽なI2Cインターフェースの
ものを選択しました。
 AD9833

中国製モジュールです。
実験用として消費電力の少ない
デバイスを選択しました

CAT通信 ーソフトウェアシリアルの採用ー

FT-2000D - Arduino UNO間のシリアル通信です。UNO側のシリアル通信は、当初、ハードウェアシリアルを使用しましたが、以下の理由によりソフトウェアシリアルへ変更しました。

FT-2000DのCATのストップビットは2ビットです。UNOのハードウェアシリアルはSerial.begin()の引数でストップビットを設定できることが分かりましたので、「2」設定により通信動作を確認してみました。

正常に動作しました。ところが、デバッグ中のスケッチ書込の都度、PC側信号との衝突回避のためTXD、RXD共に接続先から切り離す必要があり、非常に面倒でした。

UNOのソフトウェアシリアルのストップビットは1ビット固定ですが、試しにボーレート384kbpsでFT-2000Dと通信実験してみたところ、正常に動作することが分かりました。
そこで、最終的にソフトウェアシリアルを採用しています。

CATコントロールコマンド

使用したコマンド(*)は以下の4つです。
    FA;        VFO Aの周波数要求
    FA○○○○○○○; "FA;"要求に対する応答(○は1〜9)
    TX1;       TX ON(PTT ON)設定
    TX0;       TX OFF(PTT OFF)設定

( * : 「FT-2000シリーズ CAT オペレーションマニュアル」を参照)

送信中のFT-2000Dのミュート

SEND信号を使用し、送信中、FT-2000Dをミュートします。実際にはミュート機能は無く、CWモードにおいて本機からFT-2000Dへ"TX1;"送出によりPTT ONし、擬似ミュート状態を作り出しています。(PTT ONによる方法で問題無いことをメーカへ確認済。)

動作確認

以下の構成により動作確認を行いました。


AD9833の出力波形はオシロで確認、レベルは低いので測定用受信機(FT-2000Dのサブ側)で確認しました。

親機FT-2000D(CWモード)により7MHzバンドを受信し、
・LCD表示周波数が親機受信周波数と同一であることを確認(下の写真)。
・AD9833出力波形を確認。
・AD9833出力を測定用受信機により受信し、周波数が「LCD表示周波数+IFオフセット」であることを確認。

実験機とFT-2000Dの表示周波数が同一
実験機のSEND SW ONにより、
・FT-2000Dが送信状態(PTT ON)となり、「TX」LED点灯を確認。
・この時、FT-2000Dから送信出力されないことを確認。

総合試験

実運用環境で送・受信周波数および操作性について確認しました。
( スケッチ : CATVFOTEST_AD9833.txt 参照)

実験機の機能は、本来、下図送信機のPICに持たせるべき機能ですが、自作送信機(QT-71J)のインターフェースに合わせた簡易接続により実験してみることにしました。

写真



総合試験構成


実験機側の出力周波数は、QT-71J入力周波数に合わせてIF455kHzのオフセット分を加えています。

FT-2000Dのダイヤルを回すと送信機QT-71Jの周波数表示が追従します。


送信状態(SEND ON)にするとFT-2000D側がPTT ON状態になります。

但し、送信機側にはサイドトーン機能が無いためCWモニターができません。そこで、今回は親機のミュートを止めてみました(SEND信号未使用)。

その結果、アンテナが切り離された親機により非常に綺麗な澄んだトーンがモニタでき、かつ、FT-2000DのCW同調表示により同調ポイントも確認できます。

送信周波数は送信機側のつまみで微調(校正)できます。従い、送信時も受信時と同様、CW同調ポイントを中央に合わせることができます。結果、相手局周波数にピタリと合わせることができるため安心して、気持ちよく運用できます。

以上、運用結果は想像していた以上に満足するものでした。親機の良い耳と自作QRP送信機の組み合わせが実現できています。まるで夢を見ているような気分です( hi )

気がついたこと

今回の接続試験で初めて気がついたことがあります。

受信機のバンド切り替えでDDS出力周波数も切り替わるということです。当然といえば当然、至極当たり前のことですが、これまで7MHz帯の製作に注力していたため気が付きませんでした。

FT-2000Dは1.8Mから50MHzまでの10バンドの受信ができるため、これができるということは、Si5351を使用することで目的バンドの送信周波数が簡単に得られることになります。従い、バンド切り替え部分のハード、ファームが不要となることで多バンド送信機構成の簡素化が可能となり、製作がかなり楽になります。

ということで、次に、AD9833に代えてSI5351Aを実装して確認することにしました。



実験2(FT-2000D ~ Arduino ~ Si5351A)

実験機

実験1で使用したバラックにSi5351Aを追加実装しました。



実験機回路図 (Si5351モジュールを追加)

SSi5351A


中国製のモジュールです。

親機全バンド受信し、実験機Si5351Aから同一周波数を出力

1.8MHzから50MHZまでの全10バンドについてSi5351A出力波形と周波数を確認しました。

例として、1.8MHzおよび50MHzバンド確認時の写真を下図に示します。


1.8MHz帯


50MHz帯

周波数は高いバンド程ずれが大きくなりました。50MHzで約+7KHzずれます。(写真では+70KHzのずれとなっていますが、これは測定誤差です。)

受信機のバンド切り替えを行うと、Si5351Aから即座に対応する周波数が出力されます。バンド切り替えスイッチ認識、対応周波数制御等の通常の送信側ソフト処理が不要となり、楽に実現出来ています。

総合試験

実験1と同様、7MHz自作送信機へ接続して運用試験を行いました。( スケッチ : CATVFOTEST_Si5351A.txt参照 )

SI5351出力からLPFを通さず矩形波のまま送信機へ接続しています。また、出力周波数は、IF455kHzオフセット分を加算しています。

試験の結果、動作上問題がないことを確認しました。
但し、今回は動作確認のみで、送信機側の出力スプリアス等は確認していません。

その他、矩形波入力による高調波の影響が考えられるため、試験的に、送信中の出力停止処理を追加してみたところ、送信機側に問題が発生しました。
送信中は周波数をロックしますので問題ありませんが、受信移行時、入力断を検出します。入力断検出タイミングの遅延処理が必要のようです。

今後、SI5351Aの採用には更に実験が必要ですが、大雑把に見て使えそうなことは確認できました。

送信機への接続が矩形波で問題がないことが確認できればバンド毎フィルタが不要となり、回路簡素化が図れそうです。

更に加えると、送信機へ渡すSi5351A出力周波数は、バンド毎受信周波数(+IFオフセット)である必要は無く、バンド内周波数変化分が分かればよいので、送信スプリアスを抑制しやすい任意の周波数とすることができます。



CAT VFO (AD9833版)- 実験機のケース入れ -

実験1の総合試験において、運用時の操作性が予想を遥かに超えて良いことが分かりましたので、実験機をケースに入れて活用することにしました。但し、送信用DDSを直接制御していないので、システム構成上、冗長ではあります。

   


回路図を下図に示します。



CAT VFO回路図

対FT-2000Dと対PCの2本のRS232Cケーブルを接続できます。本機PS OFF時、信号はパスされてFT-2000D-PC間が接続されます。

AD9833の出力は、4次LPFを通して2SK241で1段アンプ後出力しています。負荷は470Ωです。

接続ケーブルは50Ω同軸のため、本来、入出力共に50Ωにすべきですが、相手送信機の入力インピーダンス470Ωを変更せず使用しています。ケーブル長30cm程度なので特に問題は発生していません。

LCDは不要のため実装していません。ソフトは、I2Cスレーブが存在しないと先へ進まないので、LCD部分はコメントにしておきました。

( スケッチ : CATVFO_AD9833.txt参照 )



おわりに

今回の実験により、本機は思いのほか使い勝手が良いことが分かりました。
今回はメーカ製受信機と接続しましたが、今後自作受信機と接続することも考えています。



受信機のCAT機能を利用したVFOの実験について紹介しました。
本機能を盛り込んだ送信機を自作予定です。