QR-73J

01版 2013.06.15 
00版 2012.07.10 
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 トランジスタやFETを使用した受信機の製作に取り掛かろうとしたところ、アナログICのTCA440の存在を知り、まずは試しにこの手のICで実験して見ようと評価機を製作しました。結果、思いの他高感度で受信でき、しかも簡単な外部回路で実現できることに大変驚きました。それ以来このICにはまり、QR−73Jとして正式版を別途組み上げました。
 今回は7M帯とBC帯の2バンドとする予定でしたが、IFフィルタの切替えにリレーやダイオードを使用しない簡単な回路ができず断念しました。

 

外観


 ケースはLEADのAM−5です。フロントはできる限り簡素にしました。上部のスイッチは、バンド切替(未使用)とRF ATT ON/OFFです。AF GAIN調整ボリウムはスイッチ付きで電源SWとして使用しています。ダイヤルの左にあるメータは受信周波数表示用で、横型のラジケータを使用しています。ラジケータの表示特性自体が直線ではありませんが、たまたま0VU点を7100kHzに調整するとフルスケールで約7200kHzになるので、目盛板はそのまま使用しています。

前面
フロントパネル



 フロントは簡素ですが、リアは思い切り遊んでやろうと、いろいろと入出力を設けました。以下に箇条書きします。
  ・内部VFO信号の出力(分岐)および外部VFO信号の入力(合成)
  ・IF信号の出力および入力(スイッチ切替による)
  ・AM/SSB切替スイッチ
  ・外部スピーカ接続端子
  ・ハイおよびロー(50Ω)インピーダンスANT入力

背面
リアパネル


ブロックダイヤ


 ブロックダイヤグラムを下図に示します。スーパーヘテロダイン方式でIF周波数は455kHzです。TCA440はRF,MIX,IF AMPと主要機能を有していますので、440部として一つのブロックにすると信号の流れが見えなくなってしまいます。
 TCA440の良い点は、市販のラジオ用ICによくあるAM検波回路を内部に持たないことです。このことで、外部に回路を組むことによりAM検波やSSB検波が実現できるという大きなメリットがあります。今回はDAF部においてAM検波とSSB検波を行っています。

ブロックダイヤ
ブロックダイヤグラム

 IFは外部へ取り出すことができるだけではなく、スイッチ切替により外部からIF信号を入力することもできます。
 VFO出力は抵抗ハイブリッドを通してTCA440へ供給しています。又、ハイブの一方は外部端子へ接続されていますので、外部へ取り出すことができる他、外部から信号を入力して簡易的な2波同時受信も可能です。
 ダイヤル表示はDDM−R2RにおいてVFO信号の周波数をカウントし、DA変換後の出力によりダイヤル表示用ラジケータを振らせています。

回路


回路図

7M BPFおよびRF ATT

 7MBPFは操作簡素化のため前面からの同調操作はありません。そのため、バンド幅400kHz、Qは18程度と低く設計しています。
 特性がブロードであるため、夜間等アマチュアバンド外の強力な信号によりTCA440内部において相互変調を起こすことです。この対策として20dBATTをBPF前段に設け、前面SWでON/OFFできる様にしました。
 BPF特性

440M

 AGC回路の時定数は、実際にSSB会話を受信してSメータの振れ具合と聞いて決めました。今回はCW受信時の時定数については特に考慮していません。
 IFフィルタはムラタのセラフィルCFJ455K-5を使用しています。

VFO

 VFOはFT−101用VFOの発振周波数を改造して8700〜9200kHzから7455〜7655kHzへ変更し、ダイヤル右回転で使用しています(詳細は「実験」の「FT-101用VFO改造」参照)。

DAF

 453.5kHz発振回路(「実験」の「4066発振回路」参照)とSSB検波用MIX回路、およびSSB/AM検波の切替回路をアナログSW(74HC4066)IC1個で実現しています(詳細は「「4066復調回路(DAF)」参照)。453.5kHz発振出力は少し角がとれた矩形波ですが、高調波等によるスプリアスの影響は全く感じられませんでした。
 矩形波ではスプリアスによる影響で使えないという先入観がありましたが、そのようなことはありませんでした。いろいろな好条件が重なった結果なのかもしれません(周波数構成、実装配置、インピーダンス、発振波形の鈍り等)。今後、これから製作する受信機に使用して結果を観てみます。
 AF出力は少々物足りない感じがします。LM386へ改造する(電圧利得20倍)ことで改善しました。この改造詳細は「4066復調回路(DAF)」を参照願います。

DDM-R2R

 ダイヤルをアナログメータで表示するための処理を行います。詳細は「ダイヤル表示器 その1(DDM-R2R)」を参照願います。

製作


    製作過程をPDF文書にしました。「QR−73J製作」(726kb)

測定


AGC特性
 RF入力50dBμ以上でAGC特性が暴れる現象がありましたので、7.1MHz110dBμ入力時のRF AMP制御電圧V3を変えてAGC特性を測定しました。V3=500mVが最も落ち着いています。(dBμはここでは50Ω負荷時の値です。)

AGC特性

P1dB

 TC440AのRF AMP部とMIX部は内部で接続されており個々の測定ができないため、MIX部の出力(IF:455kHz)において測定しました。RF AMP部のAMP GAINの設定は最大(AGC OFF、V3=0V)としています。
 グラフより、P1dB=-36dBmとなりました。

P1dB

IP3

 今回はじめての測定のため、IP3をIM3とP1dBのグラフから求めました。IM3はP1dBと同様、MIX出力において測定しています。
 結果、IP3=-21dBmとなりました。

IP3

使用感他


 TCA440を使用して初めて受信したのは評価機を製作した2011年1月ですが、その時の感激は現在も覚えています。市販のラジオ用アナログICによってこれほどまでに簡単に通信型受信機が作れるとは夢にも思っていませんでした。この驚きは正式版QR-73Jでも変わらず、TCA440に出会えて本当によかったと思っています。しかし、これに甘んじていてはスキルの向上は望めませんので、問題点を洗い出し、次の受信機に活かしていきたいと思います。

 まずは良い点から。感度については−10dBμ(EMF)でも音が聞こえますので、この程度で十分満足しています。IFのBPFはムラタのCFJ455K-5を使用しています。混信の多い周波数帯で使用することはほとんど無いため、選択度として十分過ぎる特性です。但し、CWは少々つらいですが。

 さて、気になる点が2点あります。一つ目はノイズ。二つ目は相互変調に弱いことです。

 ノイズは内部雑音では無く、アンテナを接続した状態での雑音です。耳障りな高域音を嫌い局発の周波数を調整して低めの音に設定しました。これがスピーカ特性との組み合わせにより低域ノイズが大きいと感じてしまう原因ではと考え、局発周波数を変えてみましたが、雑音量そのものは変わらないように感じました。オーディオ帯のf特の問題かNFの問題かの切り分けから始める必要がありそうです。

 夜間のザワザワの原因である相互変調については、前面SWにより20dBのATTを挿入することで驚異的に改善します。しかし本来の信号も20dB減衰しますのでこの点が気になります。

 相互変調に弱い点はTCA440の特性に依存しているようです。TCA440の内部において3.5Vのレギュレータがあり、電源電圧を上げてもダイナミック向上に効果はありませんでした。現在の構成ではTCA440へ入力する前のBPFにより帯域を絞るしか改善策は見当たりません。しかし、7.2MHzに隣接する海外の強力な信号をBPFにより減衰して効果を得るには限界があります。

 改善策として、@RF、MIX段におけるアクティブ回路のダイナミックレンジを拡げる、A出来る限りRF段に近いところで狭帯域(例えば1CH)のBPFを通すことで以降の回路の相互変調を抑制する事が必要と判断しました。今後の受信機製作へ反映して行きたいと思います。

 

TCA440を使用した7MHz帯専用受信機について紹介しました。QR−71Jに続く2台目の受信機です。どちらも非常に愛着のある自作機となりました。P1dB、IP3等の測定データは他の受信機との定量的な比較のために取得しました。また、今回の自作を通して問題点も見えてきましたので、次機製作において改善していきます。